
熱中症対策は「やったほうがいい」から「やらないと罰則」に変わりました
2025年6月1日に労働安全衛生規則が改正され、職場の熱中症対策が罰則付きで義務化されました。義務化2年目となる今年の夏も、対策グッズの購入や設備投資を進めている会社は多いはずです。
滋賀県は製造業・建設業・運送業の比率が高く、工場内の高温作業や屋外の現場作業を抱える会社が少なくありません。空調服やスポットクーラーの購入が増える一方で、経理の現場からは「この支出はどの勘定科目にすればいいのか」「従業員に支給した空調服は給与課税されないのか」という質問をよくいただきます。
この記事では、熱中症対策の義務の中身を確認したうえで、対策費用の勘定科目、給与課税になるケースとならないケース、補助金を受け取ったときの経理処理までを整理します。
職場の熱中症対策義務とは|対象になる作業と罰則
対象となる作業の基準
義務の対象は、WBGT(暑さ指数)28度以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上、または1日4時間を超えて行うことが見込まれる作業です。屋外の建設現場だけでなく、空調のない工場・倉庫内の作業や、夏場の配送業務も該当し得ます。
事業者に義務付けられた3つの対応
事業者が実施すべき対策は、①熱中症の自覚症状や兆候を報告する体制の整備、②重篤化を防ぐための対応手順の作成、③関係作業者への周知、の3点です。違反した場合は6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になります(出典:職場における熱中症対策の強化について(厚生労働省 富山労働局))。
この義務化を受けて、WBGT計の設置、空調服の支給、休憩スペースへのスポットクーラー導入といった支出が発生します。ここからは、それぞれの経理処理を見ていきます。
熱中症対策グッズの勘定科目
空調服・冷却ベストは福利厚生費または消耗品費
従業員に支給する空調服(ファン付き作業着)や冷却ベストは、業務のために着用する作業服なので、福利厚生費として処理するのが一般的です。作業服・制服の扱いに準じて消耗品費とする処理も認められます。どちらの科目を使うかより、毎期同じ基準で処理を続けることが大切です。
ファンやバッテリーが故障して交換した場合の購入費用も、本体と同様の科目で処理します。
スポットクーラー・大型冷風機は金額で判定する
スポットクーラーや大型冷風機は、1台あたりの取得価額で処理が変わります。
- 10万円未満:消耗品費として一括で経費にできます
- 10万円以上:原則は工具器具備品として資産計上し、減価償却します
- 中小企業の特例:取得価額30万円未満(2026年4月1日以後に取得するものは40万円未満)であれば、少額減価償却資産の特例により年間合計300万円まで即時償却できます
2026年4月からこの特例の上限が30万円から40万円未満に引き上げられたため、業務用の高性能スポットクーラーも即時償却の対象に入りやすくなりました。制度の詳細は少額減価償却資産が30万円から40万円未満へ|2026年4月からの改正点で解説しています。
WBGT計・塩飴・スポーツドリンクの処理
WBGT計(暑さ指数計)は数千円から2万円程度のものが多く、消耗品費で処理します。作業場に設置する塩飴・塩タブレット・スポーツドリンクは、従業員全員が利用できる状態で備え置くのであれば福利厚生費です。
実際に、20万円台のスポットクーラーを複数台導入したお客様では、少額減価償却資産の特例を使って初年度に全額を経費化しました。金額と台数によっては特例の年間300万円の枠を意識する必要があるため、導入前に一度ご相談いただくのが確実です。
給与課税に注意|福利厚生費にならないケース
熱中症対策の支出でも、条件によっては従業員への現物給与とみなされ、源泉徴収が必要になる場合があります。ポイントは次の2つです。
特定の従業員だけに支給していないか
福利厚生費として処理するには、対象となる従業員全員に公平に支給・利用させることが前提です。役員や特定の従業員だけに高額な空調服を支給した場合は、その人への給与として課税される可能性があります。
私服としても使えるものを支給していないか
所得税法上、非課税とされるのは業務のために着用する制服・作業服です。国税庁の質疑応答事例では、私服としても着用できる背広を支給した場合は給与として源泉徴収が必要とされています(出典:背広の支給による経済的利益(国税庁))。熱中症対策でも、普段使いできるポロシャツやタオル類を個人にプレゼントする形にすると、給与課税のリスクが出てきます。会社の備品として貸与する、社名入りの作業着にする、といった形にしておくと安全です。
福利厚生費と給与課税の境目は、食事補助でも同じ考え方をします。食事補助の非課税枠が月7,500円に|2026年4月改正と経理処理の境目もあわせてご覧ください。
熱中症対策に使える補助金と受け取ったときの経理
エイジフレンドリー補助金(熱中症対策コース)
60歳以上の高年齢労働者を雇用する中小企業を対象に、空調服・スポットクーラー・WBGT計などの購入費用の2分の1(上限100万円)が補助されます(出典:エイジフレンドリー補助金(厚生労働省))。申請受付期間は年度ごとに設定され、予算額に達した時点で締め切られる場合があるため、申請前に厚労省の最新情報を確認してください。このほか、休憩設備の整備には業務改善助成金や働き方改革推進支援助成金が使えるケースもあります。
注意点は、交付決定前に購入・発注したものは補助対象にならないことです。「先に買ってから申請すればいい」は通用しないため、申請スケジュールを先に確認してください。
補助金を受け取ったときの仕訳
補助金の入金は売上ではなく雑収入として計上します。消費税は課税対象外(不課税)です。補助金で固定資産を取得した場合は、圧縮記帳を使って課税のタイミングを繰り延べることもできます。法人税の申告調整が絡むため、金額が大きい場合は税理士に確認することをおすすめします。
補助金の申請後、受給時の仕訳や圧縮記帳の判断まで含めた経理処理のサポートは、当法人でも一般的に行っています。受給が決まった段階で早めにご相談いただくと、決算・申告での処理がスムーズです。
まとめ
熱中症対策の費用は、空調服や塩飴などの消耗品は福利厚生費・消耗品費、スポットクーラーなどの設備は金額に応じて資産計上か少額減価償却の特例、と整理すれば迷いません。注意すべきは「特定の人だけへの支給」「私服になり得るものの支給」による給与課税と、補助金の交付決定前発注です。義務化対応の支出はこの夏も続きます。処理に迷う支出が出てきたら、領収書を溜め込む前に早めにご相談ください。