企業の成長を支えるバックオフィス業務の中でも、「経費精算」は全ての従業員に関わる身近な業務でありながら、多くの課題を抱えがちな領域です。
働き方改革や人手不足が社会的な課題となる昨今、企業の生産性向上は急務であり、その第一歩として経費精算業務の見直しが注目されています。
本記事では、なぜ今、経費精算から業務効率化に着手すべきなのか、その理由と具体的な改革のアプローチについて解説します。
なぜ今「経費精算」から業務効率化なのか
経費精算の効率化は、経理部門だけでなく、会社全体の生産性向上に直結する、費用対効果の高い施策です。
バックオフィス改革の起点としての経費精算
経費精算はバックオフィス改革の起点です。経費精算は、営業部門をはじめ部署を問わず全ての従業員が発生させる業務であり、その効率化は企業全体に大きな効果をもたらします。
煩雑な手作業や紙ベースのやり取りが多いこの業務は、まさに業務効率化の「最初の関門」と言えるでしょう。経費精算フローをデジタル化し、ペーパーレス化を実現することは、単なる経理部門の業務改善にとどまりません。
全社的にDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するうえでの試金石となり、成功体験を積むことで、他のバックオフィス業務改革へとつなげやすくなります。
経費精算がもたらす業務全体への波及効果
経費精算を効率化すれば、経理担当者はもちろん、経費を申請する営業担当者などの従業員の負担も大幅に軽減されます。
例えば、外出先からスマートフォンで経費申請が可能になれば、営業担当者はわざわざ帰社して伝票を作成する必要がなくなり、本来注力すべきコア業務に多くの時間を割けるようになります。
経費精算業務の現実と4つの課題
経費精算を効率化するには4つの課題が挙げられます。
1:紙・Excel管理の落とし穴と非効率
多くの企業で、経費精算業務は依然として旧来の方法で行われており、さまざまな課題の温床となっています。例えば紙やExcelでの管理が代表的であり、落とし穴と非効率な点があります。
紙の申請書や領収書の糊付け、Excelでの集計といったアナログな管理方法は、多くの時間と手間を要します。書類の印刷や保管にはコストがかかり、過去の書類を探すのも一苦労です。また、物理的な書類のやり取りは、テレワークなどの柔軟な働き方を阻害する要因にもなり得ます。
2:申請・承認フローの複雑化と属人化
承認者が複数いる、あるいは拠点ごとにフローが異なるといった複雑な承認プロセスは、精算の遅延やミスの原因です。また、担当者しかルールを把握していない「属人化」した状態では、担当者の不在時に業務が滞ってしまい、組織として大きなリスクを抱えることになります。
3:ヒューマンエラーとチェック負荷
手作業による入力ミスや計算ミスは、どんなに注意しても完全になくすことは困難です。ミスが発生すれば、差し戻しや修正に余計な時間がかかり、申請者と承認者双方の負担が増大します。経理担当者は、申請内容が正しいか、会社の規定に沿っているかなどを一件ずつ確認する必要があり、そのチェック業務は大きな負荷となっています。
4:法令対応・証憑管理の現場の悩み
2024年1月から本格的に開始された電子帳簿保存法や、インボイス制度への対応は、経理部門にとって喫緊の課題です。紙で受け取った領収書をスキャンして保存するなど、法令の要件を満たすための作業は煩雑で、現場の担当者を悩ませています。証憑書類の管理は、ファイリングの手間や保管スペースの確保といった物理的な問題も伴います。
課題解決に効く「経費精算の効率化」4つのアプローチ
では、どこから手を付ければ経費精算の効率化が図れるのでしょうか。効率化に必要な多角的アプローチを4つ紹介します。
1:ルール・フローの整理、ペーパーレス・キャッシュレス化
まずはルールやフローを整理し、ペーパーレス・キャッシュレス化を進めましょう。社内の経費精算ルールや申請・承認フローを見直し、全社で統一されたシンプルなものにすることが重要です。
不要な承認プロセスをなくし、業務プロセスを標準化するだけでも、処理スピードは向上します。さらに、ペーパーレス化を推進し、紙の書類を電子データでやり取りする体制を整えることが効率化のポイントです。
2:クラウド型経費精算システムの導入効果
クラウド型経費精算システムの導入は大きな効果が期待できます。クラウド型の経費精算システムの導入は、これまで手作業で行っていた業務の多くを自動化できます。
申請者はスマートフォンアプリから領収書を撮影するだけで申請が完了し、承認者も場所を選ばずに承認作業が完結できるのも特徴です。システムが入力内容の不備を自動でチェックする機能もあり、ヒューマンエラーの削減とチェック業務の大幅な効率化が期待できます。
3:法人カード・ICカード連携のメリット
法人カードやICカードとの連携には多くのメリットがあります。法人カードを従業員に配布し、経費の支払いをキャッシュレス化すれば、従業員の立替払いの負担や、小口現金の管理業務をなくせるのです。
利用明細データは経費精算システムに自動的に取り込めるため、入力の手間が省け、不正利用の防止にもつながります。また、交通系ICカードと連携すれば、利用履歴から交通費を自動で精算できます。
4:モバイル対応と社内周知のポイント
モバイル対応と社内への周知も必要です。システムの導入を成功させるためには、従業員がスムーズに利用できることが要件です。
スマートフォンやタブレットからでも申請・承認ができるモバイル対応のシステムを選択すれば、外出の多い従業員の利便性を高め、利用率の向上につながります。また、導入前には従業員への十分な説明会を開くなど、全社的な理解と協力を得ることが重要です。
システムを活用しても限界がある
経費精算システムは非常に強力なツールですが、それだけでは解決できない課題も存在します。システムは定型的な業務の自動化を得意としますが、イレギュラーな対応や専門的な判断が求められる業務には限界があります。
また、システムの導入・運用にはコストがかかり、自社の業務フローに合わせてカスタマイズするには専門知識も必要です。システムのアップデートや法改正への対応も継続的に行わなければなりません。
そこで注目したいのは、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)です。業務負担を根本から解決できます。システムではカバーしきれない領域や、コア業務ではない経費精算業務そのものを、専門の外部企業に委託するBPOも有効な選択肢です。
申請内容のチェックや承認、振込データの作成といった一連の業務をアウトソースすることで、経理担当者は月末の繁忙期からも解放され、業務負担を根本的に解決できます。
またBPOサービスを活用すれば、専門家による質の高い業務プロセスが導入され、業務の標準化を実現できます。経理担当者の退職や異動による業務の引き継ぎ問題を解消し、事業の継続性を高めることにもつながります。
頻繁に行われる法制度の改正にも、専門家が迅速かつ的確に対応してくれるため、コンプライアンス強化の面でも大きなメリットなるでしょう。
まとめ
経費精算業務を効率化し、システムやBPOをうまく活用すれば、経理担当者は単純作業から解放されます。経費精算は、全従業員が関わる定型的な業務でありながら、多くの非効率が潜んでいます。
この業務から改革に着手することは、バックオフィス全体のDXを推進し、ひいては会社全体の生産性を向上させるための、最も効果的な第一歩と言えるでしょう。
まずは自社の経費精算業務の課題を洗い出し、システムの導入だけではなくBPOの活用など、最適な解決策を検討してみてはいかがでしょうか。経費精算業務の効率化は、担当者を単純作業から解放し、より創造的な業務へとシフトさせることで、企業の競争力を高める原動力となるはずです。